ディスコ探偵水曜日 / 怪獣工場ピギャース!

本ブログ開設時よりあんまり時を待たずしてずーっと見える形でブックマークしてた"今週の本棚:若島正・評 『ディスコ探偵水曜日 上・下』=舞城王太郎・著 - 毎日jp(毎日新聞)"がリンク切れ起こしてることにさっき気付いたので俺が一生読む為にここに今日全文貼る。文庫になったという話だし。
俺は買おうかどうか迷ってたときにこの評を読んで泣いたそして絶対買おうと心に決めて買って読んでまた泣いた。多分若島正がぐっときたそこで同じところで涙した。文庫になったという話だし、貼る。この評最高だと思う。本当に素晴らしいんだこれキャッシュで文明が消え去るまで残れ。

若島正・評 『ディスコ探偵水曜日 上・下』=舞城王太郎・著

                    (新潮社・上2100円、下1785円)


 ◇ 時空を超えた途方もない「踊り」の果てに



 「この世の出来事は全部運命と意志の相互作用で生まれるんだって、知ってる?」


 舞城王太郎の新作『ディスコ探偵水曜日』の冒頭部で出てくるメッセージがこれだ。上下巻合わせて一〇〇〇ページ以上、枚数にして約二〇〇〇枚という桁外れの大作を、終始動かしているのもそのメッセージである。


 決定論と自由意志という問題は、古来哲学者を悩ませてきた難問だった。ただそれは、小説の中に置かれると、因果の連鎖の中で人間がどう生きられるかという問い以上の意味を獲得してしまう。小説という、始まりと終わりがある枠の中で、すべてを作者が仕組んだ舞台の上で、登場人物がいかに行動できるか、ひいては作者も読者もいかに自由を手に入れることができるか、という問題まで一緒に引き連れてしまうことにならざるをえない。


 この小説の語り手であり、文字どおりの主人公の名前は、付けも付けたり、ディスコ・ウェンズデイという。彼はアメリカに孤児として生まれ、迷子を捜す探偵を職業にしており、現在日本にやってきて、踊場水太郎とも名乗っている。この名前からして、運命に踊らされる人物の役割を彼は背負うことになるが、そんなディスコ・ウェンズデイがどのように自らの意志で踊りだすのか、それが物語の骨組みである。もちろん、踊場水太郎という名前はただちに舞城王太郎という作者の名前につながっている。だから、言い直せば、この小説は踊場水太郎と舞城王太郎がいかに踊りだすかという小説であり、舞城王太郎がいかに作家としての全存在を賭けて踊り狂うかが読者にとっての見所になるはずだ。


 ディスコは、誘拐されていたのを捜し当てて保護した、山岸梢という六歳の女の子と一緒に住んでいる。ところが、その梢に異変が起きる。しばしば、十七歳の梢が六歳の梢に入り込み、身体まで伸縮するのだ。十一年後の未来からやってくる女の子というこの珍奇な現象をきっかけにして、小説の時間と空間が歪みだす。ここでもう、読者にはこの先何があっても不思議ではないという確実な予感が生まれる。しかし、実際の物語の展開は、そうした読者の予感を大きく上まわる、幻惑に満ちたものだ。


 この小説を無理やりにジャンルの中に押し込めば、SFミステリということになるだろう。けれども、ここでは、SFやミステリの道具立てを過剰なまでに用いることによって、逆にそこを突き破ろうという強固な意志の力が働いている。ミステリとしては、パイナップルの形をした奇妙な館、そこで起こる連続密室殺人事件、さらには十人以上の「名探偵」が登場して、次々に「真相」を披露するという謎解き合戦の趣向などがこれでもかと言わんばかりに盛り込まれる。SFとしては、ハインラインの古典的名作『輪廻の蛇』をさらに複雑にしてぐるぐる巻きにしたようなタイム・パラドックス、それを支える時間論や宇宙論が、豊富な図解付きで次々と繰り出される。それに合わせて、物語の時間と空間もめまぐるしくあちこちに飛ぶ。いや、飛ぶのは単に時間と空間だけではない。主人公のディスコは、本当に時空を超越して移動することになるのだ。それも、ひたすら運命に抵抗しようという意志の力だけで。梢を愛しているという、その愛の力だけで。


 「作家の小説が思い通りの筋道ばかりを辿るわけじゃない。でもそこには思っても見ない一筆や、自分の意表をつく展開ってあるじゃないですか。――物を作るとか創造することって全てが経験で得た知識を組み合わせてるだけじゃなくて、どこかで、ゼロから何かを生み出してるんですよ」


 ある登場人物はそんなことを言う。そうして世界を《発明》し、住む場所を拡大することが、生きることの本質なのかもしれない、と言う。もちろん、これは作者自身がこの小説にこめた思いだと、ストレートに受け取ることができる。どれほど小説の形や構造が複雑であろうと、舞城王太郎のメッセージはつねにストレートだ。物語にどれほどのツイストが含まれていても、それはなにしろディスコだから当たり前だと作者は言う。それはあくまでも踊り方なのだ。


 物語の途方もない展開に翻弄されっぱなしの読者は、いわば作者に踊らされているような感じを味わうが、勢いが加速してページを繰っていくにつれて、次第に自分も踊りだす。すなわち、痛みに満ちたこの世界のどこかに、広い別の世界を見つけ出そうと、壁に頭をぶつけるようにして奮闘するディスコに、頑張れと一緒になって声援を送りたい気持ちになるのだ。その意味で、ディスコと読者の意志の力が束になり、小説の結末を作っていく。それがあらかじめ定められていた予定調和だとはけっして思わない。すべてをぶちまけたような、破れかぶれの踊り狂いから生まれた、ひとつの奇跡だとしか思えない。

この本は奇跡だと俺もそう思うけど、あんたの評も奇跡。評だけ読んで泣いたのって後にも先にもこれっきり。久しぶりに読んだけどド素晴らしいだろこの評。完璧だ。
ところでKEIが画を担当した小説でこれに匹敵するものがあるのでアマゾンリンクを連続して貼る。

ディスコ探偵水曜日〈上〉

ディスコ探偵水曜日〈上〉


ディスコ探偵水曜日〈下〉

ディスコ探偵水曜日〈下〉


怪獣工場ピギャース! (新風舎文庫 ま)

怪獣工場ピギャース! (新風舎文庫 ま)


ピギャースもまた奇跡的な小説の1つだと俺は思う。読み進めながら身体が強張る小説だった。差別被差別強者弱者権力側逆側抑圧する側される側をライトノベルという形式で寓話的にだからこそ行くところまで絶望的に描くことができてしまって深刻な読後感を俺に与えた怪獣工場ピギャース!もついでに貼る。差異に含有される悲しさ、そして絶望をこの小説は極めた。ライトノベル=萌え絵という図式に悪意すら感じる。KEIの絵は読者をズンドコに導き叩き込む装置として完璧に機能している。ディスコ上巻の最後に梢がっていうあれとか凄く親和性があるけれど、それ以上だ。突き詰めた分断の先にしか統合への道は無いんだっていうめちゃ逆説的な何かの強度とそれに対抗する慣れ親しんだ何かの脆弱性が炙り出されるどころじゃないマウントポジションでサンドバックに強姦され達磨にされ輪姦されて捨てられる。読んだの随分前だからあれだけどそれでも覚えてるどうしても思い出すあれは忘れないけれど、ハエだったか何かだったか忘れたがその昆虫エピソードのくだりで読んでて全身がぞぞっと震えたのは覚えてる。なんとなくムスカっぽいのにムスカの百万倍エグい彼のハエに関連するあの登場人物を創出した作者はすげえと思う。なにもかもが、書かれたなにもかもがエンディングを目指し結実するけれど出てきた皆の想いは何度も燃え上がりながらもエンディングを迎えても残り火のようにじくじくと消えない。消えることはできない。残された人物が退場した人物の想いを継承するとかそういう話じゃなく、彼らの想いは小説の外、読んだ人間にかけられた呪いだ。この小説は否応無く継承する読者を呪う。
アフリカで出現した人類の他大陸への移動時期に関する云々ってニュースが昨日か今日あったけれど、黒人と白人が分かれたちゃんとした説明を聞いたことがない。でも、当初どれだけの殺し合いがあっただろうってのは思う。あの白い奴の肉は動物より旨いとかあったと思う。
貼った便利な画像付きリンク下の今何が言いたいかって松山剛の同人をコンプリートしようと心に決めた俺は2回読み昨晩3回目を開始した天才ハルカさんの生徒会戦争の続刊が読みたい。発売日前後に購入したまに読み返す俺には続刊を望む資格があると思う。
登場人物に仮託し目的の為に新たな法則を自ら創造しぶっこみこうあれとbeと現実ごと世界を丸ごと変えちまう作品内で独力で見つけ出し実現させてしまうという作品作者が俺は大好きでディスコ探偵水曜日とかもそれだ。展開や流れ、理論上どう考えても不幸な女の子を女性を自分や枠組をその認識をぶち壊してまで幸福にしてしまう、しようと超頑張る話だ。大好きな女の子の為に死ぬ程頑張る話が俺は大好きだし同等にまた別に同等に大好きな女の子が死んでしまう話が大好きで、だから大好きな女の子が死んでしまってその女の子の復活の為にあるいは死なないように死ぬ程頑張る話が大好きなのは当然。どう考えたって死んでしまう、死ぬことが俺とその子以外の全てにとって綺麗なその子を生かす為に世界の関節を外す。ただただその子の為に。そして自分の為に。大好きなその子に死んでほしくないからってそういうのが俺はほんと好きだからその子の生きる未来に一緒にいたいから何度だってリテイクと叫ぶ。監督は俺だ。自分だ。筋肉少女帯だ。あの曲も大好きだそういうのが好きだ監督は俺だってそうすることで話がおかしくなるならその話がおかしいという世界のほうを変えろってこうあれって変えてしまう作者が演出家が絶叫してる作品が創作物がほんと好きなんだそしてピギャースの悪役はディスコ探偵のディスコでリテイクの主人公だ。好きすぎるだろ。凄まじいんだって。まじで。