ちはやふる(5) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる(5) (Be・Loveコミックス)

チャンピオンに負けて泣けるか?


この漫画の主人公は泣く。
勝てそうだったのに勝てなかったから、じゃない。圧倒的に及ばなかったのに。
同じフィールドで戦いたい。同じ景色を見たい。同じことをしたい。強者=まるで片想いの相手みたいで、夢の通い路 ひとめよくらむと、いつか私もそう思い、想いたいって、いつかライバルが欲しい、倒したい相手が欲しいとも読めて。
同じ視点を獲得したとき、勝ってしまったそのとき、登場人物たちはどう思うんだろうってだけで次も買う。例えばスラムダンクは勝てなかった。結局神奈川1位にはなれなかったし、前年度チャンピオンには勝ったけれど次の試合には負けた。あなたが好きだ、だからバスケも、だから今ここにいる、と競技≒恋愛を描ききった(そう結論付けた)(そして最後まで反転させなかったスラムダンクとどう折り合いをつけるんだろう。恋愛に反転してしまいそうな競技に対する情熱をどうするんだろう。最初っから頂点にいるクイーンは明かした。まるで一人でやっているような気分だ。その気分を味わったそのとき、登場人物は、主人公はどう思うんだろうか。
そして、なんで新は戻ったんだ、とふと思い、ああ、完っ璧に自分の為じゃないよなと思う。全部千早の為だ。彼女がそう願うから。と思い、おおお、すげえ新好きになった。そう、キングが、クイーンが。何を考えるかって孤独であり、寂しさ。下の人間に何かを望むとしたら、上がってきてくれ。俺と、私と同じものを、一緒に。
同じ物を見ようよ。*1
小学生のときに、同じことで、自分が大好きなことで自分に接してくれる人が現れたときの気持ちを思い出したんだ。
同じ人を見て。
だから同じフィールドに戻るんだ。
真似をしたって言われていて、多分したんだろう、してしまったんだろう。でもそれくらい好きだったんだろう、と思う。小説とかで、上手くなりたいなら。一番好きな小説を全文丸写しして上手くなれって誰が言ったんだっけ?太宰治
いつもいつも本文、じゃない本編でぐっと来てたけれど、今回はそれよりも、カバーの折り返しの作者の言葉でよりぐっと来た。私も限られた空間の中で無限の何かを、みたいな。
そう思って描いてる作者の本なんだぜ。見せて欲しいし、越えて欲しい。描いて欲しい。作者も見たことが無いものを、読者に、俺に。続きも気になるし。俺は買う。
しかし凄いよね。上記主人公が泣いた直後に似たような状況で泣きそうになっても泣かない奴がいるんだが、なんでかって、まだ同じ景色が見えてないから、みたいな理由。だから泣かない。まだ泣かない。いやあすっげーいい場面。てかその前フリの、泣いてる主人公を見てこう、ああ、こいつは初めて云々セリフがもうやばいです。最高です。しかしあそこまで片想いの相手の気持ちを理解してるっつーのも。どうなんですか。あそこまで分かってるなら泣いてもいいような。いやー。うーん。だから。なので。もっと上を目指す、と湧き上がった恋愛情熱を競技情熱に丸ごと移して金沢に向かう太一。
いいねー。

*1:だから新クイーンに会っちゃだめー!みたいな意見をとある掲示板で目にしたがほんとそうだよね、と思う。どうなっちゃうのか