慰めの総量

007 / 慰めの報酬 (2枚組特別編) 〔初回生産限定〕 [DVD]

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誰でも彼でもなんで殺しちゃうのよというジュディ・デンチのぼやきと肩をすくめるジェームズ・ボンドを見て画面のこちら側の観客は……俺はにやにやするわけですが、そこに執拗に別のアングルから、というかベクトルから似たようなことを言うグリーンさん(悪役)の発言を思い出して見て寝て起きてしばらくして今ふーむと思う。今回の007、身内からも敵からも始終似たようなことを言われ続けるボンド。すなわち、お前関わった奴全員殺しちゃうよね。そこんとこどう思ってんの。
今回のボンドは支離滅裂でめちゃくちゃです。話が、じゃない。内面。優秀だから、ばったばったと敵をなぎ倒しその度に黒幕に迫っていくからなんとなく流しちゃいますがとんでもない。「復讐しなきゃ」ボンド言います。誰に?「まだ分からない」
そんなことこれっぽっちも描かれてないですが、俺は思いました。ボンドの動機は恐怖です。関わった人が死んでいく。これでもかという程に死んでいく。人に言われるまでもなくそんなこと分かってる。承知してる。だから、なんとかしてその関係性、連鎖、を破壊しよう、どうにかしようと思って、乗っかる。復讐を動機にするな。任務に私情を挟むな。任務に私情をはさんで、復讐しに行くことで、なんとか動く。そうでもしないと、動けない。もう誰も殺さない為には動くしかなくて、自分が動かなければ周囲はもっと死んでしまって、動く為には理由が必要で、そこには復讐という、分かりやすい手っ取り早く転がってる私情しかない。任務が無ければMI6の、007の自分は動けない。ならば私情から任務を引っ張り出すしかない。
「自分がいれば」そう言ってジャンカルロ・ジャンニーニを抱きしめて一滴の涙を流したボンド。また一人自分のせいで死んでしまう。そして、それに対して何も返答しないジャンカルロ・ジャンニーニ。そうだともそうじゃないとも言わず、ただ一言、全部自分で抱え込むな、自分を、自分がいさえすればって自責する自分を許してやれって死の間際に言うジャンカルロ。ここ屈指の名場面と思う。前回死んでしまった女の人も許してやれってジャンカルロ言うけど、それは、ボンドがどうしても認めなかった先程の「自分がいれば」これを、それをあの女の人も自分もこれっぽっちも思ってないんだよっていう想い。
思えば、どうしてジャンカルロついて来たのかって。なんで一緒に来たのってボンド尋ねるけど。これはもう、身をとして。全部自分の意思だってボンドに分からせる為。全部自分がやりたいから、お前のせいじゃないからって。あとなんじゃこのホテルはって感じに大爆発し続けるホテルの燃え盛る廊下に一発の銃声が響いて絶体絶命なのに哄笑するグリーンのまた一人、また一人お前のせいで死んだっていう哄笑、セリフ、それを聞いてとんでもない顔をするボンド。見ててここで絶対グリーン殺すだろって思った。だってあれはもう、オリガ死んだろって思うとこだし。なのにグリーンを引っ張り上げるボンドのなんだ、心情?あれは、こいつ情報持ってるから殺せないとかそういうの完全に度外視した行動と思うのね。敵味方すら関係ない。何よりも否定したい、もうそんなことしたくない、そんな自分はもう嫌だ、「関わった人間を殺してしまう」打算とか一切抜きにしてこれを否定したいからグリーン引っ張り上げたと思うのね。
でもこれからもずっとボンドは苦しむと思う。ボンドが行動する限り、関わる限りお前の為に死んでもいいって奴は出てくるから。みんな満足して死ぬけど、それでも。ボンドが心底なんだ、自分を許すことができるとしたら、誰かの為に死なないと無理だろう。死に掛けないと無理だろう。
でもまあ、007、今回の映画。ジュディ・デンチの為に死に掛け続けてた映画、とも言えるけど。母親みたいなもんだと言い切ったジュディ・デンチに眼前で銃口が向けられるのを見てしまった、防げなかったという恐怖が今回のボンドを根っこのところで突き動かしてると言っていいと思うけど。
そのまあ。自分だったら上手くやれたのに、死なないのに、自分がいれば死なせなかったのに、と思う優秀すぎるボンドのこれからを見るのが楽しみです。絶対続くってのがまたいい。またポール・ハギスが脚本に参加してくれたらいいなと思います。いつか尽きるとしても擦り切れるとしてもそれでも思いやりの環に慰めキャッチボールに加わらないか、ボンド、みたいな意味がもしかしたら原題にはあるやもなので報酬より量……いやいやそこはやはり見返りを、見返りという形で与える人でありたい。総量?いいでしょう。でも、報酬で。みたいな意味もあるやもしれず、なので報酬でもいいかもしれない。いやいい。ぐるっと。はい。