"×××・マリ・×××××××"
真希波さん

「扉を開けて、次はパンツか、と聞こうかどうか迷って、まあいいやと思う。右手に靴、左に、あれはストッキング?を持ってとても綺麗な暗くなる少し前の夕焼け空を背景に、歩いてた彼女を見て。なんですか、と聞かれて、飛行機雲、と答えた俺はなんなんだろうと思う。ああ。今、まさに、と思った。俺は煙草を吸うのが好きだけれど、屋上に出たのもそうだけど、できるだけいい情況で吸いたいなとは思ってる。今、飛行機雲、と間抜けな返答をした俺の視線を追って首を空に向けた彼女の背後、今、この本当に、滅茶苦茶に綺麗な夕焼け、気持ちのいい風、飛行機雲、完璧な、パーフェクトに健康的で、若い制服の彼女に、雲。スカート。ストッキングに、髪。完璧じゃないか。これって。ほとんど無意識に、今まで一度もやったことのないような完璧な動作で煙草に火をつけて、胸一杯に煙を吸って、完璧な景色を眺めた。ライターの音に振り向く彼女の流れる髪、スカート、崩れていく飛行機雲、溶けていく夕焼け。完璧だ。全部が完璧だ、と思う。眉を顰めて口を開いた彼女に、チャンピオンの朝食って知ってる?と聞いた。いえ、と言う彼女に、俺も知らない、と言う。なんですか、と表情に不満、でもまあ、笑って、もう一服した。それだ。多分そうだ。これから屋上で煙草を吸うとき、いや、俺が煙草を吸いたい、と、それもできるだけ、なんていうか、いい状況で、と願うとき、そこに、と思った、とは言えない。チャンピオンて何ですか?いや、言えねえなって、やっぱり、それを聞いて思う。チャンピオンて何ですか?それは今こうして煙草を吸う俺だ、と思う。たち、じゃなくて、俺だけの。それからは無言で、すっかり暗くなってから屋上を降りる。その前に少しだけ、住宅街の光るたくさんの窓を見た。「先生は、なんで先生になりたいんですか」ストッキングも靴も履いた彼女が俺の後ろから聞いて、学校の屋上で煙草が吸いたかったから、と答えた。しばらく黙ってから、3Fの廊下まで降りてから、そうですか、と彼女は言って、ああそういえば、と。朝食って?勘違いって意味かな、と、クイックなんとか、ああ、ダーティーに。んじゃまた。「屋上で?」足を止めて、振り向いて、……晩飯でもいいなら、と軽く手を振って、職員室の隣にある殺風景な部屋、実習生の荷物置場に帰る。結構上手いこと返したな、と思った。でも自分でも全然意味わかんね、とは思った。あの3点リーダーはめんどくせえなって。なんですかって?だから、それ」